研究助成実践事例 2021-01 : research grant report 2021-01

【学校部門】優秀賞 ■本文PDF
1所属校長野県北佐久郡御代田町立御代田中学校
2役職校長
3氏名依田俊一
4研究主題自他の人権を守ろうとする行動ができる生徒の育成
5研究副題「認知症」を全校テーマにして取り組むことから
6研究の要旨本校では、地域とのネットワークを生かして、人権学習の推進、特に人権感覚の育成にあたってきた。

様々な背景をもちながら、総じて皆で自然にかかわりあいながら生活している生徒ではあるが、「自分の行動や言動が相手をどのような気持ちにさせるか」想像できにくい、いわば認知面での課題があり、それが様々なトラブルや不適応につながっていると考える。そこに、今まで地域とのネットワークを生かして実施し実績のあった「高齢者福祉についての学習」を関連させ、令和2年10月の人権教育月間に、全校統一の中核テーマを「認知症」と定めて展開した。

まず、学習に向けての素地を高められるよう、「全校向け校長講話」、「テーマに関連する学年ごとの共通題材を用いた道徳」、「全校一斉のDVD視聴」と進めたが、それらの学習の後に実施した以下の①~③(論文中では「2 研究内容」の(5)、(6)に記述)の、「地域連携や異学年集団での学び」は、本校の特色を生かしたものである。

① 演劇部と町関係者が協力して作成した認知症啓発劇
部活動の演劇部の生徒が、今後の教材ともなる認知症啓発劇「お家はどこですか」を作成した。町交番の担当警官が制服を着て出演したり、地域のコミュニティTV局に実際の撮影とDVD化の協力をいただいたりするなど、地域連携で実現することができた。

② 認知症サポーター養成講座への参加
町社会福祉協議会が継続的に取り組み、今まで2千名以上の方が認知症サポーターとして登録され、企業などにも活動を広げてきた。本校でも実施した実績があり、今年度の開催も快諾いただき、学年ごとに実施した。

③ 委員会ごとに行う異学年集団での学習
特設月間としての最後の展開は、14の委員会ごとに、1~3年の生徒による小グループで、「私たちにできること」についての考えを共有する時間とした。そこでは、3年生に加え、2年生にもリーダー的な役割を与えていたことが、活動をより活性化させていた。特に、下級生が上級生の考えに触れ意識が高まったと考えられる例が多かった。そして、2年生が「考えたこと・学んだこと・共有したことは、認知症の方と接する時だけの話なのだろうか?」という新たな問いをもった。

人権教育月間が終わり、新2年生に生徒会が引き継がれた際、新正副生徒会長は、先輩が運営し全校をあげて人権について取り組んだことを引き継ぎたいと考え、その実践の一つとして「令和2年度 全国いじめ問題子供サミット」に応募し、長野県代表選出された。

選考申し込みの文書には、「人によるとらえ方のちがい」、「認知症への理解から自分のあり様を考えたこと」、「演劇部による劇から考えたこと」など、それぞれの場面で学んだことを「いじめ問題」につなげて考えていったことが表現されていた。生徒にとって今回の展開が有効であり、加えて上級生から下級生に主体的な取り組みが引き継がれたことからも、このように、全校中核テーマで取り組むことは、自他の人権を守ろうとする実践行動ができる生徒の育成のために有効であると考えられる。

人権感覚は、言葉で教えるのではなく、生徒が主体的に「話し合い」「反省」「現実生活と関連させた思考」などのいくつかの段階の学習サイクルを通して身についていくものである、ということが改めて示唆された。これらは、新学習指導要領で示す『主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点から「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視』することにも重なる歩みである。